「 ソネバフシへ 」
第五章 Mr & Miss Friday (ミスター&ミス フライデー)
海に浮かぶ水上飛行機の停留所に迎えに来て、「滞在のお世話をいたします」と挨拶をしてくれたナツミは、
ソネバフシの世界では“Mr & Miss Friday(ミスター&ミス フライデー)”という役割を担っている。
ソネバフシで唯一の日本人フライデーである。ナツミがここでつとめるミス フライデーは、旅人へおもてなしと癒しを提供する上で、
ソネバフシにはなくてはならない存在であろうと感じた。“フライデー”という名称は、イギリスの小説家ダニエル・デフォーの小説
「ロビンソン・クルーソー」の登場人物から取っている。フライデーはロビンソンの忠実なスタッフである。
ソネバフシは海に囲まれているが、島の大半は樹木に覆われ、小さいジャングルのようだ。
海、砂浜、緑の三位一体となった美しい島だ。オーナーであるイギリス人のソヌが、奥様のエヴァさんへ島をまるごと
プレゼントしたことから、お二人のリゾート創りが始まったという。世界中ラグジュアリーなホテルやレストランを知り尽くす彼らがたどり
着いた先は、絢爛豪華な世界ではなく、環境に寄り添った新しいラグジュアリーの価値観を持って 作り上げたものだった。
ヴィラの内装などデザインに関してはエヴァさんがクリエイティブディレクターを務めており、 例えば、コテージは内外装ともに樹木と
一体になったような素材と色合いだが、リビングのソファーのクッションは黄色とオレンジ色にどの部屋も統一されている。
ジャングルを舞う色鮮やかな鳥や熱帯の花々を連想させる。また私には、自然の中にあって、ここは人の文明と文化も共存する
くつろぎの場であるというアイコンのようにも見えた。これがセンスというもののなせる効用だと感心する。
環境と寄り添うという意味では、ソネバフシで提供される飲料水は全て再利用の可能な栓付きのガラス瓶に入ってゲストに供される。
栓の色でガス入りとガスなしに分けられている。この水は海水を独自に蒸留してつくられていた。
また、排出されたゴミは可能な限り土や肥料に加工され、野菜などをそだてるために利用される。
ゲストが体験できるのは夢心地の楽園であるが、そのバックヤードでは環境を維持し、自家栽培による新鮮な食材をゲストに提供するという志を、大変な人的努力とハイテクで貫き実現しようとしている。そう考えると、ゲストとバックヤードの仲介をしているのが、
“フライデー”ということになろうか。
環境に寄り添うと言うと、多少の不便を覚悟しなくてはならない現代であるが、インド洋の小島において、なんら不便を感じることなく
文明と自然を活用した最上の癒しをゲストに体験させてくれるのがソネバフシのラグジュアリーだ。
そして、ソネバフシは、オーナー夫妻の創造を、スタッフ一丸となって具現化し続けている生命体のような島であるとも感じた。