「 ソネバフシへ 」

第六章 My バイシクル

さあ、ソネバフシの1日が朝食から始まる。

到着時には、メインレストランやヴィラ周辺には闇夜という緞帳(どんちょう)が下りていたので、ソネバフシという舞台の全貌を目にすることができる朝が来た。自分のフライデーに電話すれば、バギーで迎えにきて、バイキング形式の朝食がとれるメインレストランまで

送ってくれる。

しかし、ソネバフシには移動の楽しみもある。主なる足は“自転車”だ。自転車は嫌いではない。

ヴィラの玄関を出て、コテージ番号の焼き印がされた素朴なおさかな型の木のキーホルダーに付いた鍵でドアの施錠をする。

鍵を回すと「ガチャリ」とこれまた鍵らしい素朴な音を奏でる。施錠をしなくてもいいのではないかと思えるほどのどかではある。

外に出ると、金属パーツが全ていい感じにサビ付いている無骨な自転車が、玄関脇の竹で組んだ駐輪台に収まっていた。

私の見立てでは、いわゆる“ママチャリ”よりゴツイ感じで、記憶をたどると、子どものころに新聞配達の人が乗っていたような

自転車とイメージが重なる。フレームがしっかりと太くて、ギアチェンジの機能はない。タイヤはマウンテンバイクよりも太い印象だ。

ナンバープレートのように、コテージ番号が焼き印された木製プレートが後部に付けられている。

ライトはソーラー充電機能付きのLED仕様で、私の自宅の自転車よりもエコでハイテクだった。

 

綿麻素材のような生地で作られたオリジナルのカバーが被せてある大きめのサドルに腰を落としてみると、つま先がようやく砂に

着地するくらいの高さだ。私にはやや大きいようだったが、素早くペダルに足を移して踏み込んでみた。

「おっ」と思った。裸足で自転車を漕いだらやや痛いだろうと思いこんでいたのだが、予想に反して当りがソフトである。

ソネバフシの道は基本的に砂道であるから、漕ぎだした時はタイヤが沈み込んでハンドルを取られたこともあり、一度足を付いた。

そこでペダルを確認すると、サドルカバーと同じく、品の良いブラウン色の生地で丁寧にペダルが覆われていた。

ペダル部のパッド兼スベリ止めになっている。無骨な自転車に、繊細な配慮がなされていたのである。

さらにハンドルには、やはり同じ生地で作られた子袋が下がっている。中身を確認すると白い小さいタオルであった。

汗をぬぐうものだ。

この時、ソネバフシが世界のセレブリティーをも魅了するラグジュアリーリゾートであることを思い知らされた。

 

さて、自転車の走りであるが、私はすぐに砂地で自転車を走らすコツを得て、快調にメインレストランまでの道を飛ばした。

ゆっくり走ってもいいものを、何故か飛ばしてしまう。

ハラシロクイナや鶏が道を開けてくれる。ジャングル大帝気分だ。

ちなみに、このお気に入りになった“Myバイシクル”を、急な雨でレストランの駐輪場に乗り捨てることがあった。

しかし、夕方にヴィラへ戻ると、全てのオリジナルカバーが取り換えられて戻っていた。

滞在中、私のもう一人のフライデーのようだった。