「 ソネバフシへ 」

第十一章 メモ

ソネバフシには、海に囲まれたリゾートとして定番のアクティビティやそれにまつわる施設は全て揃っている。

どれも質が高いレベルであることはいうまでもないが、他に類をみないようなアイデアも盛り込まれている。

「映画をやっていますよ」とうながされ、バギーに乗って暗いジャングルを進むと、視界が開けて広場に抜けた。

空には星が輝き、地上では巨大なスクリーンが輝いていた。野外シアターになっている。

柔らかなクッションを備えたデッキチェアが並んでいて、ゲストが映画を楽しんでいた。

ドリンクサービスはもちろんだが、ポップコーンマシーンを備えた屋台もある。

小さな島で足元は白い砂、周囲は熱帯の木々、空は星というように囲まれながら、ポップコーンをほおばり映画を楽しむ。

かすかに交じり聞こえる動物の鳴き声が、ソネバフシシアターのおだやかさと豊かさをもの語っていた。

ここで映画を見たら極楽にちがいないというアイデアが実現されている。

 

もちろん、スパ施設やダイビングセンター、ライブラリー、なんと大きな天体望遠鏡を備えた天文台もあり、

この地で会議はあるまいと思うが、コンファレンスセンターも建っている。

食にいたってはチョコレートハウスだけでなく、60種類のフレーバーがあるというアイスクリームパーラーも存在する。

しかし、驚くのは、日本でもなかなか味わえない繊細な高級アイスクリームのクオリティーで提供されていることだ。

熱帯の島でアイスクリームはありがたい。とはいえ、そんなに1日にいくつも、しかも毎日食べられるものだろうかと思ったが、

これが自然にスルリと頂ける。

小ぶりのスクープで、フルーティなものも多く、滞在中は海やビーチ等でアクティビティを終えたあと、必ず寄ることになった。

しかも、フレーバーは常に数十種で、ナッツやチョコレート、フルーツソースのトッピングも自由自在。

営業時間中は自由にいただけるという童話の中に潜り込んだような感覚に幸せを噛みしめた。

さらに、私がアイスクリーム店でフレーバーを悩む前にいつも悩む、コーンにするかカップにするかということも、同じく悩めるように

準備されている。これらアイスクリーム事情のすべて、ドアの外では野生のウサギが見つめている環境においてだ。

オーナー夫人のエヴァさんの名前を冠したクリームチーズフレーバーもあり、様々なコトやモノがオーナー夫妻に愛されて

大切にゲストへ提供されていることも感じる。

 

他にも冷却された部屋に新鮮な生野菜や各種ビネガー、塩、オイル、ピクルス、トッピング等を並べて自分でサラダが作れるハウス、

チーズ好きにはたまらない豊富なチーズと各種ハムが揃うハウスなどが近年に増設されている。

7000本のワインが貯蔵されているワインセラーもある。地下にあるこのワインセラーでディナーを楽しむこともできる。

ぐるりとワインに囲まれてワインに合うお料理を頂く至福の時。しかし部屋は、主であるワインの適温に合わせているため私達には少々寒い。フリースと、足元に程よい温度に保たれた湯たんぽを置いてくれる配慮の中でのディナーは、ソネバならではの体験の一つだ。

 

また、ソネバの飲料水は、海水を独自技術で蒸留しているが、この飲料水はゲストに提供される前にクラッシック音楽を聞かせて

いるという。これもオーナーのソヌが日本で聞いてきたとかで、水が美味しくなるようにとソネバフシの水の蒸留所では日本製の

音楽プレーヤーから音楽が流れている。その効果の有無は別にして、ゲストへ提供する水一つにもソネバフシの愛情を感じる。

 

近年のことといえば、ソネバフシは近年まで受け入れるゲストを大人限定としていたそうだ。しかし、今現在はファミリーゲストの

受け入れにも力を注いでいる。 かつてカップルでソネバを楽しんでいたゲストが年を重ねて、結婚し、子供が生まれ、新しい家族と

ともにソネバを訪れたいというリクエストがあったためだ。子供向けにサマースクールを企画し、子供が楽しめる施設も建設中である。

 

ソネバフシは常に進化しているように思う。リピーターの多くはここでの普遍と進化を楽しみに訪れるのだろう。その進化の歩みは 、

時にひらめきを元にする良質なアイデアから成っているようだ。そしてそれが、ソネバフシの最大の魅力であるにちがいない。

では、アイデアはどうやって生まれるのだろうか。

私はその秘密を考えた時、2009年にオーナーのソヌに日本で初めて会ったときのことを思い出した。

 

ソヌは移動のバスの中で沢山のカード状のメモ用紙を整理していた。そして会話の際に、そのメモ用紙に盛んにメモをしていた。

彼をラグジュアリーリゾート業界のカリスマ的な存在として認識していたので、その圧倒的なメモぶりにも関心を寄せたことを鮮明に

覚えている。ソヌは、あらゆる情報を捕え、すぐにそれを整理し、判断して実行に移す。掴んだ情報から醸成されたアイデアは、

彼が世界中のどこにいようと、彼のリゾートで実行に移される。アイデアの魅力に加え、実行のスピードの速さが彼のリゾートを

他とは違うものに昇華させているように思う。

そして今回の滞在で、私はソヌのメモがソネバフシに注ぎ込まれ続けているアイデアの秘密であることを確信した。

ソネバフシでは、コテージの洗面台、メインレストランのトイレなど、あらゆるところにメモ帳と鉛筆が備えられていたのだ。

ソヌの“メモ魔”ぶりは周囲のスタッフも認識しているところだった。

ソヌのアイデアから創造された楽園でくつろぎながら、私も「Soneva」(ソネバ)ロゴの入ったメモ帳と小枝を模したユニークな鉛筆を

手に取ってみた